高次脳機能障害の妻をサポートするため、選んだ15時退社の時短勤務。
ケアの時間を確保しながら働くことで見えてきた価値と課題をお伝えします。
収入減という現実と向き合いながらも見出した「家族との時間」の価値について、働き方の一つの選択肢として参考になれば幸いです。
「何のために働くのか」という問い
毎日、遅くまで残業し、休日もトラブルがあれば出勤が当たり前。そんな生活を続けてきました。
妻がグリオーマと診断され、高次脳機能障害を抱えるようになってからも、「収入を確保しなければ」「家族を養わなければ」という思いがあり、その働き方は変わりませんでした。
しかし、リーダーシップを求められるポジションについてからは業務量も増え、ある日ふと気づきました。
「そもそも、何のために働いているのだろう?」
家族を守るために働いているはずなのに、肝心の家族と過ごす時間はほとんどない。
妻の記憶障害や注意障害が進む中、母の助けを借りながらなんとか家事や育児をこなしていましたが、高齢の母にも限界があります。
このままでは本末転倒ではないか?
そんな疑問が時短勤務を考えるきっかけでした。
時短勤務という選択
長い葛藤の末に選んだのは、15時退社という時短勤務でした。
以前よりも2時間以上早く帰宅できるようになりました。
しかし、時短申請を決意したのは簡単なことではありませんでした。
「普通」とは違う働き方を選ぶことへの不安、周囲の目を気にする気持ち、そして何より「自分のキャリアはどうなるのか」という焦りがあり、決断は勇気がいりました。
上司との面談では、家族の状況と「家族を第一に考えたい」という希望を伝え、自分の役割について交渉しました。
すべてが順調に進んだわけではなく、時には理解を得るのに苦労することもありましたが、交渉の結果、時短勤務という提案を受け入れてもらうことができました。
家族との時間がもたらした変化
15時に退社できるようになって最も変わったのは、妻の日常生活のサポートが充実したことです。
以前は帰宅が遅く、家事も育児も妻や母に任せていました。
高次脳機能障害がある妻にとって、日常のタスクを一人でこなすことはとても大変なことでした。
今では、私が買い物のサポートをしたり、夕食の準備をすることができます。
子どもの宿題を見る時間も確保できるようになりました。
また、医療機関への付き添いや、妻が将来的に社会復帰するための情報収集やリハビリの時間も少しずつですが取れるようになりました。
予想外だったのは、私自身のメンタルヘルスにも大きな変化があったことです。
毎日、帰るときは真っ暗だった以前と比べ、明るいうちに帰宅できることは精神衛生上も大きな違いをもたらしました。
家族の笑顔に触れる時間が増え、仕事の疲れも自然と癒されていきます。
心の余裕ができたことで投資やビジネスの勉強といった自己投資の時間も確保できるようになり、将来への視野が広がったように感じます。
何より、体調不良で外出が難しい妻に寄り添える時間が増えたことで、妻の精神的な安定にも寄与していると感じています。
現実の課題と向き合う
もちろん、時短勤務にはいくつかの課題もあります。
最も大きいのは収入面での減少です。時間短縮に伴う減収は家計に影響します。
私の場合、約15%の収入減となりました。
収支のバランスをしっかり管理したうえで決断する必要がありました。
また、責任ある立場でありながら時間制約がある状況でも、求められる役割はあまり変わりません。
必然的に仕事の効率化や完璧主義の考え方を変えなければなりませんでした。
リソースの使い方、優先順位の明確化、自分の理想的なやり方と求められる最低限のやり方の妥協点を見つける。
そうした意識の変化に最初は苦労しました。
ITの仕事をしているので、時短となってもシステムリリースや障害などのトラブルがあれば残業することもありますし、時には夜間の対応をすることもあります。
自分が早く帰るのを横目に残業する職員がいるのも、正直なところストレスに感じることがあります。
しかし、これらの課題は「家族との時間」という得られた価値と比較すると、乗り越えられないものではありません。
課題と向き合いながらも、自分の選択に自信を持って進んでいくことが大切だと感じています。
理想の働き方を目指す道筋
キャリアの追求も大切ですし、自分のできることを増やして高収入を得ることや、自分のやりたい仕事にフルコミットすることも素晴らしい選択です。
私の場合は家族が何より大切で、従来の働き方では家族を大切にできないと感じたため、時短勤務という選択をしました。
長期的に見て、妻の病状が安定し、子どもが自立して、仕事にフルコミットしたくなればそのときに選べばいいと思っています。
私の理想は「週休3日・1日6時間の在宅勤務」です。
これにより、より柔軟に妻のケアと自分自身の時間も確保できると考えています。
通常フルタイムで働いて生活するのが当たり前の世の中で、これは理想論かもしれませんが、実現に向けて戦略を立てています。
具体的には、生活費の圧縮、節税、社会保障の活用を徹底的に研究し、少ない収入でも質の高い生活を維持する方法を模索しています。
また、AIを活用した業務効率化や、将来的には副業としてのクラウドワークなど、時間と場所に縛られない収入源の確保も視野に入れています。
同じ境遇の方と共有したいこと
私の経験から感じたことを共有したいと思います。
安定した収入を得ながら家族のケアに時間を割くことができる時短勤務はどうでしょうか?
時短勤務や介護休暇など、法律で定められた制度は利用する権利があります。
収入減に対する不安はありますが、家計の見直しや社会保障制度の活用などで、ある程度はカバーできることも多いです。
何より、家族を支えるあなた自身の健康が第一です。
継続可能な働き方を選ぶことが、長期的には家族全体の幸せにつながり、結果的にさまざまなコストを抑えられる可能性もあります。
そして何より、「普通」とされる働き方にこだわりすぎないことも大切です。
人それぞれの状況や価値観があり、家族を大切にするための選択は決して間違ったものではありません。
むしろ、そうした選択をすることで見えてくる新たな価値や可能性もあるのです。
普通の人とは違う制度を使うことで不安に思うこともありますが、制度を活用することを恐れないでください。
皆さんはどのような働き方を選択していますか?
私の家族のケアと仕事の両立という挑戦が日々の仕事を頑張る理由について改めて考えるきっかけになってもらえば幸いです。
まとめ
時短勤務を通じて改めて気づいたのは、「家族と過ごす時間」の何物にも代えがたい価値です。
仕事上の役割は組織である以上、代替がききます。しかし、家族の一員としての役割は誰にも代替できないものです。
何のために働くのか改めて考えるきっかけとなったこの選択は、収入は減っても、家族の笑顔や安心した表情に接する時間が増えることで、豊かになったと感じています。
理想の働き方はまだ道半ばですが、少しずつでも前に進んでいくことが大切だと思います。
これからも高次脳機能障害をサポートする家族としての働き方についてチャレンジし、情報発信していきたいと思います。
「家族と自分を大切にするための働き方」という視点が、少しでも多くの人に広がることを願っています。