妻がグリオーマ(脳腫瘍)と診断されてから9年が経ちました。
幸いにも腫瘍の増大や転移は見られませんが、てんかん発作の不安や疲れやすさなど、目に見えない症状と向き合いながらの生活が続いています。
先日、気になる出来事がありました。
少し前に交わした会話の内容を妻が一切覚えていないことや、子どもとの何気ない会話で意思疎通がうまくいかず、思わず感情的になってしまう様子を目にしました。
これまでになかった変化に不安を感じ、主治医に相談したところ、グリオーマ治療後の脳萎縮による影響である可能性を指摘されました。
この経験をきっかけに、妻の抱える高次脳機能障害について改めて向き合う機会となりました。
特に記憶障害と注意障害は、日常生活に大きな影響を与える症状であり、本人も家族も戸惑うことが多いものです。
今回は、記憶障害と注意障害に焦点を当てて私たち家族が実践している具体的なケアの方法をご紹介したいと思います。
同じように大切な人の支援に悩む方々の参考になれば幸いです。
記憶障害との向き合い方
記憶障害とは
記憶障害は、新しい情報を覚えて記憶として定着させることが困難になる症状です。
特に短期記憶への影響が顕著で、数分前の出来事や会話の内容を覚えていられないことがあります。一方で、発症以前の古い記憶は比較的保たれていることが多いのが特徴です。
私たちが経験した困ったこと
- 昨日話した内容を全く覚えていない
- お願いしていてたことを忘れる
- 同じ質問を何度も繰り返す
- いつの間にかお金がない
記憶障害のケア方法
妻は自発的にスマートフォンのメモを活用しています。
会話の内容や約束事、気づいたことなど、その場でこまめにメモを取る習慣が身についています。
このおかげで、重要な予定の忘れや、生活に支障をきたすような致命的なトラブルは回避できています。
メモを取りながらの会話は一般的な会話のペースよりもゆっくりになります。
しかし、私たち家族は「ゆっくりでいい」「急がなくていい」という姿勢を大切にしています。
時間をかけてでも、妻の言葉に耳を傾け、理解を深めようと心がけています。
また、記憶障害の特徴をよく理解することで、約束を忘れてしまったり、同じ質問を何度も繰り返したりすることがあっても、決して責めないよう気をつけています。
なぜなら、記憶障害のある方を追い詰めてしまうと、失われた記憶を埋めるために無意識のうちに作り話をしてしまう(作話)ことがあるからです。
作話は決して悪意から生まれるものではありません。
しかし、それが嘘だと指摘されてしまうと、本人との信頼関係に大きな亀裂が入りかねません。
幸いにも、現在のところ、わが家では作話の症状は見られていません。
これからも「ありのままの妻でいられる関係」を大切にしていきたいと思います。
そのためにも、家族として「認めてあげられる精神的な余裕」を持ち続けることが重要だと強く感じています。
参考文献
福祉職・介護職のためのわかりやすい高次脳機能障害 | 障害者福祉 | 福祉 | 商品情報 | 中央法規出版脳損傷後に記憶障害などが出現し、日常生活に支障をきたす高次脳機能障害。障害特性による困難が多く、支援には様々な知識を要する。本書は原因・症状から支援方法、社会資...
おわりに
記憶障害は目に見えにくい症状です。
そのため、周囲の理解を得ることが難しく、本人も家族も戸惑いを感じやすいものです。
実は、記憶障害を理解しているはずの私たち家族でさえ、実際に約束を忘れられたり、同じ説明を何度も繰り返すことになったりすると、つい不快な感情が湧いてきてしまうことがあります。
「症状なのだから仕方ない」と頭では分かっていても、心が追いつくまでに時間がかかることも正直あります。
もし、こんな身近な家族ですらそう感じてしまうのであれば、社会の中で理解を得ることの難しさは想像に余りあります。
ただ、最近、近くのドラッグストアで「身だしなみの多様性を認める」というポスターを目にしました。
人手不足という背景はあるものの、一昔前では考えられなかったような多様性が認められる時代になってきています。
これからは、見た目ではわからない障害のある方々への理解も、少しずつ広がっていってほしい。
そんな願いを込めて、これからも私たち家族の経験を発信し続けていきたいと思います。